とりあえず一枚

映画とかアニメとか本とか音楽が好き。とりあえず一枚の絵を描いて、感想をまとめます。

小説『鍵のない夢を見る』

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新年1冊目は、辻村深月の『鍵のない夢を見る』

2012年の直木賞作品。全5編の短編集。

 

誰にでも起こりうるような話。

普段の生活から一歩踏み外してしまったら、後はもう、転げ落ちるばかり。

手から零れる砂のように、もう取り戻せない。

 

5人の、救いのない女達の話。

設定だけ聞いて冷静に考えたら、「いや辞めとけ辞めとけ、おかしいやろ。」って思うんだけど。

読んでると、抑えられない気持ちや、止まらない電車に乗ってしまったような焦燥感に、痛いほど共感してしまう。

そんな、辻村深月の秀逸な筆が光る作品。

 

 

特に気に入ったのは2編。

 

1つ目は「仁志野町の泥棒」

住人全員が知り合いの小さな町。そこに季節外れの転校生が来た。その子は明るい性格ですぐに仲良くなった。ある日、その子の母親が近所で泥棒を働いているという噂が流れる。外出時に鍵もかけないような田舎町で、留守を狙ってほんの少しのお金をくすねているのだ。彼女は前の町でも、その衝動的な盗みがやめられなかった。そしてこの町に引っ越して来た。

周りの大人達は全て知っていた。知った上で、ご近所付き合いだからと警察には届けず、運動会でもスーパーでも、普通に彼女と話しているのだ。なぁなぁにしている訳ではないが、それが大人の折り合いというもの。子供は、初めて清濁織り混ざった気持ちの悪い世界を知る。

クラスメイトの母親は言った。「生理のようなものだ」と。毅然とした態度で、隠すこともせず子供に真に伝える姿に、私もこうなりたいと思った。

この編は、泥棒がやめられない女には焦点を当てず、その周りの子供達目線の話。クラスの友人や、友達の親、自身の親など、多角的に影響され目まぐるしく生きる子供の姿に、面白いと思った。

 

 

2つ目は、「芹葉大学の夢と殺人」

大学時代の教授が殺された。すぐに思い浮かんだのは、当時付き合っていた彼氏。大きすぎる夢を真剣に語っては周りから浮き、自分の感性のみを信じ相手を容赦なく傷付ける彼。夢を見過ぎて現実がままなっていない彼は、卒業できないのは教授のせいだと思っていた。そしてその不安が的中するように、数日後彼が指名手配される。

彼から「最後にもう一度会いたい」と電話がかかってきた女は、彼に会いに行ってしまう。まじかぁ、と思ったけど、多分私も会いに行ってしまうだろう。

そして、再会した彼はあまりにも変わってなく、あまりにも現実から離れていた。そんな彼を見て、女は衝動的な計画を思い付く…。

この編こそ、止められない転落って響きがピッタリだと思う。女は堅実な道を進んでいたのに、いつの間にか後戻りできなくなってしまった。最後の行動は、自暴自棄なのか、前向きな気持ちなのか…。現実が見えてない男にも、落ちていくしかない女にも、両方に共感してしまったから面白い。

 

 

新年1冊目にしては、心臓がキュッと掴まれるような本だった。すごく面白かったけど。

次は何読もうかな。